そんなに焦らなくて良いのかも

僕は焦り屋です。
自分のできない事ができる人を見ると、焦ります。
自分のわからない事をわかっている人を見ると、焦ります。
「急がなきゃ、急がなきゃ」
「もっとやらなきゃ、もっとやらなきゃ」


でも。
焦ったところで、できない事ができるようになったり、わからないことをわかったりはできません。
そして、なかなかできるようにならない事で、よけいに焦ってしまう・・・。
悪循環です。


それに、あんまり焦って何かをやると、失敗が増えます。
たまに成功しても、ちっとも身に付きません。
だって、成功した時には次の事に目移りしてるんですから。


「いいんでない、のんびりやれば」
「休憩しないと、疲れるよ」
結婚する前、当時はまだ彼女だった奥さんが言いました。
いつも焦ってる僕を捕まえては、何度も何度も言いました。
何度も言われるうちに、「そんなもんなのかもしれない」と思えるようになりました。
それで・・・。
僕は、少し焦るのをやめてみようと思いました。


「なんとかなる、なんとかなる」
「のんびり、のんびり」
自分を洗脳するように繰り返しながら、焦らないように、いろいろな事をゆっくりとやってみました。
焦る気持ちを抑えてゆっくりとやるのも、これはこれで大変です。
時間がどんどん過ぎていくような気がして、何かに置いて行かれるような気がして、とてもとても怖くなります。
それでも、ゆっくりやると決めたからには、ゆっくりとやってみることにしました。
時間をかけて。
ひとつずつ、ひとつずつ。


ところが。
時間をかけてゆっくりやっていたはずなのに、僕はいつの間にか、たくさんの事ができるようになっていました。
「この事ができるようになりたい」と思って焦った事。
「あの事がわかるようになりたい」と思って焦った事。
気がつけば、そのうちのいくつかは確実にできるようになっていたのです。
焦ってやっていた時は、できるようにも、わかるようにもならなかったのに。


なんだか、狐につままれたような気分です。
ミヒャエル・エンデの「モモ」の不思議な道を思い出します。
走らずに、歩く方が速く移動できる、不思議な道・・・。


少し前、いまは奥さんになった彼女に、そんな話をしてみました。
「そんなもんなんでないの?」
あっさり。
身もフタもないほどの全肯定。
僕にとっての新発見は、どうやら彼女にとっては当たり前の事だったみたいです。


前よりもずっと頻度は減りましたけど、それでも、僕は時々焦ります。
「もう少し早く、もう少し早く」
「もう少しだけ、もう少しだけ」
その度に、隣にいる奥さんは、走り出した僕を捕まえます。
「なんとかなる、なんとかなる」
「のんびり、のんびり」


そして今日も、僕はいろいろな事をゆっくりとやっています。
時間をかけて。
ひとつずつ、ひとつずつ。
ゆっくりと隣を歩いている奥さんを、見失わないように。