先達

大学を卒業した僕は、入社2週間で派遣に出された。
新人研修が終わって配属先の発表の時、一人だけ社名が違っていた(^^;
まぁ、同期もその後一ヶ月もしないうちに他の会社に派遣されていったから、たんなるタイミングの問題だったんだろう。
派遣先の会社は世界的な大企業で、その開発拠点が札幌にあり、そこでWindows用のドライバを作ることになった。


派遣業務には「顔合わせ」という名目の採用面接がある。
面接には3人の社員が来ていて、所長とチームリーダとサブリーダだと名乗った。
実際の開発現場の人間が面接に参加していることに、素直に感動したのを覚えている。
プログラムの作成はやっていたものの、ドライバの仕組みなんて知らない、社会人経験の無い人間をよく採用したと思う。
後で聞いたところ、「面接した中で一番元気が良かった」のが採用理由だということだった。


ドライバの仕事は、基本的には派生開発だ。
そこでの開発も、10年来のスパゲッティソースコードに新機能を追加するという仕事だった。
面接でも顔を合わせたサブリーダは、ちょうどその頃入社6年目で、技術的には頭ひとつ突き抜けた人だった。
知識量、技術力、経験。
三拍子揃うとここまですごいのか、と、社会人一年目の僕は圧倒された。
知らない分野の技術にも詳しくて、いつも何かを勉強していた。
尋ねればたいていの事は答えてくれたし、新人の僕の仕事のフォローアップもきちんとしてくれた。
仕事量は彼が一番多かったはずなのに・・・。




あれから6年。
知識量は増えた。
技術力は入社直後とは比べ物にならない。
様々な現場でそれなりに経験も積んだ。


そして、あの時のサブリーダと同じ年齢になった。






教わる側だった僕が、教える側にまわっている。


頭の中で自問する。
僕の姿は、あの時見た彼の姿に近づいているだろうか。