講演の要約をブログにアップすると違法?

11月に入ったので、心機一転、ちょっと難しいことを考えてみます。
昨夜、奥さんと激論になってしまいました。
ネット上の著作権に関するサイト(アドレス失念。後で追記します。)で、「講演の要約をブログにアップするのは著作権法違反」という記事があって、「なんで?」と思ったそうな。
「こんな内容の講演がありました」という程度の要約も違法なのか、と。
その時はとりあえず知ってる知識で話したんですが、確信を持って話ができなかったので、ちょっと調べてみました。
僕はまったくの素人ですので、以下の記述には勘違いがあるかもしれません。
詳しい方の指摘、大歓迎です。


まず、講演の内容は著作権法の保護する「著作物」です。
これは、著作権法第十条に、そのものが例示されています。

第十条  この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
  一  小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
  二  音楽の著作物
  三  舞踊又は無言劇の著作物
  四  絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
  五  建築の著作物
  六  地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
  七  映画の著作物
  八  写真の著作物
  九  プログラムの著作物



さて、「講演の要約をブログにアップする」という行為ですが、これは、

  1. 講演の要約を作成する
  2. 作成した要約をブログにアップする

の2つのフェイズに分解できます。

講演の要約を作成する

著作権の中に、「翻案権」というものがあります。

第二十七条  著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

著作権者以外が、著作権法第二十七条にある行為を行うと、翻案権侵害になるわけです。では、「要約を作成する」行為は、「翻案」にあたるのでしょうか?
これについては、著作権審議会第4小委員会報告書というものが昭和51年9月に出されていて、その第二章の4に以下のような記述があります。

以上のほか、抄録(アブストラクトともいわれる。)の作成の問題がある。著作物の題号や著作者名、出版者名、発行年など当該著作物の内容にかかわらない事項をピックアップして、文献目録のような形態で利用することについてはもとより著作権は及ばないが、内容を簡潔にまとめたもの、いわゆる抄録は、ものによっては二次的著作物に該当する場合も考えられ、これを作成してそのコピーサービスを行うに当たっては、原著作物の著作者の著作権が及ぶこととなる。
(参考)
 抄録が二次的著作物に該当するかどうかについては、原著作物とそれを基として作成された二次的作品との内容的かかわりの度合い、創作性の有無などについて個々の判断を要するものであるが、図書館界や情報産業関係者の間で行われている抄録に関する分類が一つの参考となろう。すなわち、抄録を2種類に分け、文献の存在についての指示を与えるだけであつて、内容の把握については本文を必要とする程度のものを指示的抄録といい、これに対し、内容をある程度概括したものを報知的抄録と呼んでいる。著作権法の観点からは、指示的抄録は二次的著作物に該当しないものと解せられるのに対し、報知的抄録については二次的著作物に該当するものが有り得るものと考えられる。

「二次的著作物」を作る行為は、「翻案」にあたります。
作成した「要約」(抄録)が「二次的著作物」にあたる場合、その「要約」(抄録)を作成する行為は「翻案」にあたる、というわけです。
さて、抄録は、2つに分類できます。

指示的抄録
文献の存在についての指示を与えるだけであつて、内容の把握については本文を必要とする程度のもの
報知的抄録
内容をある程度概括したもの

で、「指示的抄録を作ること」は非「翻案」、「報知的抄録を作ること」は「翻案」にあたるということです。
今回問題にしている「要約」は、「講演の内容をまとめた抄録」ですから、「報知的抄録」に当たると考えられます。
よって、「要約を作ること」は「翻案」です。


さて、「翻案」に関して著作権法上の規定は、以下のようになっています。

第四十三条  次の各号に掲げる規定により著作物を利用することができる場合には、当該各号に掲げる方法により、当該著作物を当該各号に掲げる規定に従つて利用することができる。
一  第三十条第一項、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十四条第一項又は第三十五条 翻訳、編曲、変形又は翻案
二  第三十一条第一号、第三十二条、第三十六条、第三十七条、第三十九条第一項、第四十条第二項、第四十一条又は第四十二条 翻訳
三  第三十七条の二 翻案(要約に限る。)

第四十三条の一号と三号が、「翻案」して良い場合の規定(ってことだと思う。「当該各号」がどこを指してるのかわかりにくいけど)。
それぞれで挙げられている条項をまとめると、

  • 第三十条第一項 私的使用で、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製しない場合
  • 第三十三条第一項 教科書での使用
  • 段三十三条第四項 通信教育用の図書について、第一項〜第三項を準用
  • 第三十四条第一項 教育用番組での使用
  • 第三十五条 教育機関での授業での使用
  • 第三十七条の二 文字放送に使用

要するに、教育用に使うか、私的使用の範囲内でのみ「翻案」して良いということになります。

作成した要約をブログにアップする

常識的に考えて、ブログにアップするという行為は「私的使用」を逸脱しているでしょう。

まとめ

まとめます。
「講演の要約をブログにアップする」行為は、著作権法上、以下のようになります。
1.「要約」は「報知的抄録」であり、「要約を作成すること」は「翻案」に当たる。
2.「翻案」は、教育または私的使用以外の目的では著作権(翻案権)の侵害になる
3.ブログにアップする行為は、私的使用ではない
よって、「講演の要約をブログにアップする」と著作権法違反になる。


しかしこれだと、講演の内容に触れるものはブログのネタにしにくいんですね。
公式のホームページか何かで文書化されていれば、「引用」というかたちでネタにできるんですが・・・。

参考:
著作権のひろば」http://cozylaw.com/copy.html
「ネット社会の情報リスク・ネット上の著作権侵害、「引用」と「要約」」http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/net/inforisk/050524_quotation-summary/
「知的財産用語辞典」http://www.furutani.co.jp/index.html
「CRIC・著作権Q&Aシリーズ」http://www.cric.or.jp/qa/sodan/sodan9_qa.html
「第4小委員会(複写複製関係)報告書」http://www.cric.or.jp/houkoku/s51_9/s51_9.html