美雪への手紙

美雪へ








こっちは雪もなくなって、だいぶ暖かくなってきた。
風邪を引きやすいお父さんにとっても、過ごしやすい季節だ。
お父さんもお母さんも、時々君を思い出しては泣いている。
辛いわけじゃなくて、ただ、寂しい。
これからもきっと、時々泣くだろうけど、心配しなくていい。
お父さんもお母さんも、まあ、元気でやっていけそうだ。




そっちはどうだ?
お祖母ちゃんやお祖父ちゃんはかわいがってくれているか?
他の子たちと仲良くできているか?
お父さんもお母さんもまだいったことはないけど、そっちは良いところだと聞いている。
いずれは俺たちもそっちにいく。
その時は思い切り抱きしめてあげるから、もうしばらく待っててな。




我が家に君がいた3ヶ月は、最高に幸せだった。
お父さんは、君に何を教えてあげようかって、そればっかり考えてた。
俺が楽しいと思うこと。本を読むこと。歌を聞いたり、歌ったりすること。プログラム。工作。
俺ができたらいいなと思うこと。花や木の名前を知ること。自然の中で、自然を感じること。
世の中はくそったれだってこと。
それでも、まんざら捨てたもんでもないってこと。




だけど、実際には反対になっちゃったな。
君は俺にたくさんの事を教えてくれた。
ただ「生きている」ってことがどんなにすごいことなのか。
誰かを大切に思う気持ち。
将来のこと。どうやって生きていくか、考えなきゃならないってこと。




思い返してみると、俺はあんまりいい父親じゃなかったな。
君がいる間にも、くだらないことで何度かお母さんを泣かせていた。
気づかずに、いろんなところで、いろんな人を傷つけているに違いない。
開いてさえいない君の目には、俺はどんな奴に見えていただろうか。




君が、俺の未熟なところを教えてくれたんだと思っている。
ひとつずつ克服していこうと思う。
君と過ごした時間はほんのわずかだったけど・・・。
俺は、親になったんだから。




君は知らないかもしれないが、我が家には家系図がある。
ご先祖さんから続く系譜が書かれている紙で、本物は本家にある。
我が家にあるのは嫡男じゃなかったうちの祖父さんが勝手にコピーして作ったもので、まぁ、分家の家系図かな。
そこには、お父さんの名前の下に、ちゃんと君の名前も入っている。
だから安心していい。
君は確かに、お父さんとお母さんの子なんだ。




お父さんとお母さんは、いつでも君の幸せを祈っている。
いつでも君を感じている。
海に、山に、風に、土に、身の回りのものすべてに君が宿っている。
そう考えると、なんだか優しい気持ちになれるから不思議だ。




もしいつか、君に弟か妹ができたら、その時は優しく見守ってあげてほしい。
そしてそれ以上に。


また、お父さんとお母さんのところに生まれてきてほしい。


もし、君さえ良ければ。








2007年4月 青空の下で