10年泥
遅ればせながら、10年泥について。
元記事:
@IT「10年は泥のように働け」「無理です」――今年も学生と経営者が討論
上の記事が偏向記事っぽいという記事:
「泥のように働く」の元々の話がIPA討論会での意味合いと全然違っている
比較用に、ITProの方の記事:
「IT技術者はやりがいがある仕事か」---学生とIT産業のトップが公開対談
以下、僕がバイト時代から10年程度見てきた中での、狭い範囲の話です。
それを念頭において読んでください。
こういう討論会に出るくらいだから、参加者は非常に意識の高い学生さんだったのだと思う。
質問している内容も、事前にある程度の知識がなければできない質問ばかりだ。
でも、決定的な知識が欠落している。
同じ「IT業界」とくくっても業種によってやっている仕事は全然違うのだ。
そして、今回討論会に呼ばれていたSIerと呼ばれる業種は、取り扱っている商品こそIT関係の商品だけど、その実体はただの商社だ。
SIerの中のIT技術者の仕事は仕様策定と工数管理と予算折衝、つまりほとんど事務作業だ。
自分でプログラムを組む場合もあるけど、それは本来の業務ではない。
だからこそ、「プログラマ」→「SE」→「マネージャ」というキャリアパスを示される。事務屋なんだから、当たり前だ。
「プログラマ」は、ただの下積みだ。プログラマをやっている期間というのは、自分たちが売るものに関する知識を得るための研修期間であって、それ以上のものじゃない。
かく言う僕も、何社か大手SIerさんと仕事をさせていただいたことがある。
彼らはみな、まともな設計ができないし、そもそもプログラムが書けない。*1
そりゃそうだ。彼らにとっては本業ではないんだから。
今後のキャリアで必要になると思わなければ、勉強なんてしないよね。*2
SIerにとってプログラムとは単なる商品であって、基本的には外の人間に作らせるものだ。
自分たちで作れるにこしたことはないんだけど、別にそれは必須じゃない。
そんな技術よりも、部下や外の人間をいかに管理するかという技術の方が重要になってくる。
学生さんが上のような知識を持っていないってことは、以下の発言から見て取れる。
- 「10年たてば環境や必要なスキルは変わっているのではないか」
- 「ハードウエア技術者は修士が多い。それに比べ,ソフトウエア技術者はとりあえず入れてしまえという感じがする」
- 「IT技術者の生産性は人によって大きく違い,普通の人の10倍の生産性を上げる人もいる。それなのに,入社時に評価されるのは『コミュニケーション能力』など。技術をつけてもつけなくても一緒なら,頑張らなくてもいいとなってしまう」
ぜんぶプログラムを組むという視点からの発言だ。
学生さんにとっての「IT技術者」は、プログラムを組む人を想定している。
もしくは、チームリーダくらいまでは想像の中にあるかもしれない。
でも、何度も書いたように、SIerというのは商社であって、そこで言う「IT技術者」というのは商社マンのことだ。
さて、上記の前提に立つと、経営者の発言の意図も見えてくるのではないか?
- 「まず10年間は泥のように働いてもらう。その中で気力と周囲を思いやる力をつける。次にマネジメントの勉強をして,最後の10年はマネジメントを大いにやってもらう」
- 「天才プログラマのように技術を極めるのであればそれを生かす道に行くべきであって,企業に入って大型システムを開発するのはもったいないか向いてない」
彼らが欲しいのは優秀なマネージャであって、優秀な技術者じゃない。
優秀な技術者は、外部委託先の会社にいれば良いのであって、自社には必要ないのだ。
経営者側の発言を見てみると、非常に正直に語ってくれていると思う。
彼らは自分たちが商社であることを隠していないし、商社としてのホンネをずいぶんと言ってくれている。
そういう意味では非常に実りの多い討論会だったんじゃないかな。